1.1.新下水道ビジョン(案)とは
- 国土交通省と日本下水道協会が、今年(平成26年)発表した、下水道事業の指針案
- 長期目標と中期計画(5年程度)で構成される
1.2.インフラの老朽化
- 下水道のインフラ平均経年値は、都道府県20 年、政令市28 年、市町村18 年で、20年後には約11万kmの管路50年を経過する
- 下水道は維持管理が行い難い環境にあり、老朽化状況の把握でさえも困難な状況である
1.3.十分に行われていない維持管理
- 年間の維持管理費は管路施設、処理場ともほぼ横ばい
- ストックの増加に伴い、管渠1m 当りの年間維持管理費は、10 年前より約2割減、処理水量1m3/日当りの年間維持管理費は約1割減少
- 管路施設の点検・調査は大都市ほど実施されている。年間の実施延長割合は点検1.1~2.6%、調査0.3~1.5%というのが現状
- 老朽化管路施設の多い政令指定都市でも、点検・調査の割合は全管路の2~3%程度、都市数でも2~3割
- 今後、下水道施設の老朽化により、適正な維持管理を実施するためには、必要な経費が増加
- TVカメラと潜行目視の実績は、政令指定都市の自治体数比では100%だが、延長比では0.8%に過ぎない(全国平均では自治体数比 31%、延長比 1.5%)
1.4.技術力継承問題
- 維持管理職員は、56~60 歳が多く、35 歳以下が少なく、51 歳以上の職員が5割程度を占める
- 機械・電気・水質職員は偏在し、政令指定都市と30 万人以上都市とで8割前後を占め、大都市に集中
1.5.実施中の国の関連施策
- 下水道施設の長寿命化計画策定率 約71%(H24 年度末)
- 下水道長寿命化支援制度(H20 年度創設)
- 管渠の老朽化対策の緊急実施(総点検等)(H24 年度~)
2.新下水道ビジョンに見る、今後の方策
2.1.中期目標
- 下水道事業実施の全地方公共団体(事業主体)で、管理体制(人)、施設管理(モノ)、経営管理(カネ)の一体的マネジメントによる持続的な事業管理を実現
- 下水道事業管理計画の策定・見える化(5年以内)、情報のデータベース化、ベンチマークによる強み・弱みの把握、 補完体制の構築を通して、サービス水準の継続的改善を実現
2.2.経営健全化に向けた制度構築
- 国は、5年以内に施設の計画的な点検・調査及び改築・更新を促進するための財政支援制度を確立
- 国は、5年以内に持続可能な下水道事業の実現に向け、将来の更新財源の確保や人口減少等による使用水量の減少を見据えた料金設定の考え方を示す
- 国は、地方公営企業会計の導入促進の動きに合わせ、経営の見える化によるアカウンタビリティの向上を促進する
2.3.事業管理に必要な補完体制の確立、技術力の維持・継承
- 国は、5年以内に補完内容、補完に必要な能力や事業主体の特性に応じた具体的な補完体制等を整理し、必要な制度等を確立する
- 事業主体は、自らの技術力の実状を踏まえ、直営による技術力の維持或いは人事交流又は補完者と一体となった技術力の継承を図る
2.4.下水道産業の活性化・多様化の主な具体的施策
- 下水道事業の見える化:事業管理計画制度、下水道全国データベース構築、ベンチマーキング手法(先進事例との比較評価による水準点の向上)等の活用による、事業主体の施設・経営に関する情報を「見える化」をする
- 国のパイロット支援事業:モデル都市で、資金調達・設計・建設・維持管理・改築などの事業運営に対し、包括的に民間企業が参画・貢献できる仕組みを検討する
- 国のスマートオペレーション:ICT(情報通信技術)、ロボット分野と下水道界をつなぐプラットフォーム構築、技術実証、モデル事業等の推進
- 国の新技術の普及促進:各種機器の性能評価、重点的な支援等により、事業主体における新技術の導入を促進
3.新下水道ビジョンに対応する、調査と診断
3.1. いま何が問題か
- 主に予算的な理由で、点検や調査はほとんど行われていない。現状形態による展望は見込めない
- 建設の大半が終了し、自治体担当者の配置換えや減少により、従来の形での予算枠は減少せざるを得ず、新たな枠組みが模索されている
- TVカメラ調査をはじめとする従来の調査形態や評価手法では、予算や日進量などで物理的に対応できない
- 包括民間委託、スクリーニング、ストック・アセットマネジメント等の新しい取り組みは、まだ始まったばかりで、発生対応型の調査診断から、予防保全型の調査診断への展望がまだ開けていない
3.2.まずやるべきは、管路施設の3つの見える化
- 管路障害の見える化:管路施設の障害情報(破損・クラック・不陸蛇行・付着堆積ほか)を、TVカメラ調査など「視る」調査で、見える化する
- 管路劣化の見える化:管路施設の実際年齢(健全度・破壊荷重等)を、「叩く」調査で、見える化する
- 不明水の見える化:管路施設の不明水(浸入水)分布や時系列変化を、「量る」調査で、見える化する
- これら3つの見える化と、事故・維持管理履歴が、アセットマネジメントに必要な基本情報である
3.3.スクリーニング(健康診断)による管路施設のカルテづくり
- 国交省主導のB-DASH事業は、課題解決のための端緒として、スクリーニングによるカルテづくりの標準化を目指したものである
- スクリーニングとは面的調査のことで、人に置き換えれば健康診断そのものである
- カルテがなければ、改善や維持管理費用等を見積もれず、包括民間委託などの公私協働は不可能
- 管種によって異なる健康診断。コンクリート管、陶管、樹脂管では
健康診断の方法が異なる
3.4.なぜ健康診断が必要か
- 法定償却年数に関わりなく、リスクがなければ(健康であれば)できるだけ何もしないで放置したい
- 逆に放っておくと甚大な障害や事故が発生するようなリスク対象は、できるだけ早く見つけて対処したい・健康診断は、健康な管路と、精密検査が必要な管理を区分判定するところから始まる
- 健康診断か精密検査かが曖昧な調査は、結局、不経済になることが多い
3.5.健康診断の要点
- 網羅性:調査費用が高いからといって調査対象をあらかじめ絞るのは本末転倒。経年分類はあっても網羅することが原則
- 定期性:数年単位の定期検査が健康診断の基本。時系列なビッグデータによる統計解析が予防保全の要である
- 迅速性:リスク管理には網羅性と迅速性が必要不可欠。網羅と定期性確保には、検査の日進量を飛躍的に伸ばす必要がある
- 経済性:廉価でなければ健康診断は膾炙しない。スクリーニングの社会性に見合うコストが要求される
- 健康診断用の診断基準:4つの要点を満たすために、つぎのような診断基準が必要
①健全・要詳細調査判定 ②詳細調査区分判定(改築交換・改築更生・一体修繕・部分補修・浚渫清掃等の維持管理・経過観察)
3.6.精密検査(詳細調査)は、対策に直結したものを
- 健康診断結果、20年を超えるような経年管、事故・維持管理履歴により、必要と認められる管路が詳細調査の対象
- 健康診断の結果を受けて実施する詳細調査は、対策計画の策定に直結することが重要で、極力、調査のための調査を排する
- 詳細調査区分判定(前掲)ごとに、改善箇所と数量、改善方法などが明記される形態が望ましい
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